02/12/20 掲載
■CGで復活した忍者映画
「梟の城」(1999年・東宝)を見てきた。30年近く前に読んだ小説だったが、登場人物も物語もよく憶えていた。しかし、木さるはあんな可哀想な役だったかなあ。火野正平が久しぶりにがんばっていたのはうれしい。
今村昌平と大岡昇平と火野正平にあやかって、長男を尚平と名付けた。世界的な映画監督と硬骨の文学者と女たらしの俳優である。父親は自分の果たせなかった夢を息子に託す。火野正平のように女性にもてることを願って名付けたが、どうも親に似てしまったらしい。
ところで「梟の城」は、アクションシーンにもっと凝ってもらいたかった。篠田正浩監督は松竹ヌーヴェルヴァーグ派と言われた若い頃、司馬遼太郎の「奇妙なり八郎」という清河八郎を主人公にした短編を「暗殺」(1964年・松竹/丹波哲朗主演)というタイトルで映画化している。狭い路地での暗殺シーンを手持ちカメラで撮ったショットが斬新だった。
「梟の城」(1959年刊行)は、司馬遼太郎がまだ時代小説家(後に司馬さんは歴史小説家になり、国民作家ともてはやされる)だった頃の忍者小説で、直木賞を受賞(1960年)した。忍者を主人公にした長編は他に「風神の門」(1962年刊行)がある。こちらはNHKが連続ドラマ(1980年・三浦浩一主演)にして放映した。
時代小説と歴史小説を僕は個人的に分けて考えている。森鴎外に「澁江抽斎」という究極の歴史小説(史伝)があるが、基本的に歴史小説とは実在の人物を描き、史実にそって物語が進展するものだと思う。時代小説は、架空の主人公が登場し、史実は踏まえつつも自由奔放なストーリーで楽しませてくれるものと考えている。昔は伝奇小説と言われたジャンルに近い。
新進の時代小説家だっだ司馬遼太郎は、1960年から1961年にかけて忍者ものをけっこう書いている。「最後の伊賀者」「忍者四貫目の死」「伊賀の四鬼」「飛び加藤」「果心居士の幻術」などなど。(その頃、僕は白土三平の忍者漫画で「飛び加藤」や「四貫目」と出会った。伊賀の四鬼の残り二人は誰だったろう)
1962年5月からは、名作「新選組血風録」の連載が小説中央公論で始まっている。同年6月からはサンケイ新聞に「竜馬がゆく」連載開始。11月からは週刊文春に「燃えよ剣」の連載が始まる。戦国もの4部作の最初の長編「国盗り物語─斎藤道三」が刊行されるのは1965年である。
司馬さんが忍者ものを書いた時期は短い。その後、幕末ものから戦国ものを中心にして書き続け、「殉死」(1967年刊行)をきっかけにして明治ものまで手がける。やがて、その筆名の元になった(司馬遷を望んで遼かに及ばず)司馬遷の「史記」の世界に挑戦する。「項羽と劉邦」(1980年刊行)である。
「国盗り物語」がNHKの大河ドラマとして放映(1973年)されたことがある。司馬さんの戦国ものすべてを使ったようなドラマだった。メインはもちろん「国盗り物語」だが「新史太閤記」「功名が辻」「尻啖え孫市」「覇王の家」「梟の城」などの主人公たちが交錯した。
斎藤道三は平幹二郎、信長は高橋秀樹、光秀は近藤正臣、秀吉が火野正平、山内一豊の妻お千代を樫山文枝、孫市は林隆三、そして「梟の城」の主人公・葛籠重蔵を「太陽にほえろ」のヤマさんこと露口茂(彼の代表作は1964年の日活作品「赤い殺意」か1967年の「人間蒸発」だと思う)が演じた。
「梟の城」は、「忍者秘帖・梟の城」(1963年・東映)として一度映画化されている。監督は工藤栄一。葛籠重蔵は大友柳太朗が演じ、今回、鶴田真由が演じている小萩(清楚な佳人タイプ)は高千穂ひづるだった。
男勝りで積極的かつ奔放な方のヒロイン・木さる(葉月里緒菜)を演じた女優の記憶が不鮮明なので、調べてみたらどうも本間千代子らしい。舟木一夫の学園ものでセーラー服を着てヒロインをやっていた、あの本間千代子である。(「君たちがいて僕がいた」のヒロイン。吉本新喜劇のチャーリー浜の持ちネタではありません)
工藤栄一の映画は、逆光を使った印象的なショットが必ず挟まれる。代表作「十三人の刺客」(1963年・東映)のタイトルから「映像の刺客」とか「逆光の魔術師」などと呼ばれたこともある。
「忍者秘帖・梟の城」もモノクロームの夜のシーンが印象的で、森の中での忍者たちの闘争が見事なライティングで浮かび上がる。何十年も前に一回見ただけだが、未だに鮮明に映像が思い出せるのは凄い。
「忍者秘帖・梟の城」のシナリオを書いたのは池田一朗。フランス文学の助教授からシナリオ作家になり、名作「にあんちゃん」(1959年・日活)を書いた人だ。日活で石原裕次郎主演の映画などをずいぶん書いているが、後に隆慶一郎と名乗り時代小説の名作を残した。
ちなみに「十三人の刺客」の方のシナリオライターは池上金男。後に「四十七人の刺客」で時代小説家としてデビューする池宮彰一郎である。この小説のタイトルは自らの代表作をなぞったもので、ストーリーの構造や決めゼリフも「十三人の刺客」から再利用している。
「今の時代に人を斬った侍などおらぬ。人と人とが命をぶっつけあって闘うとき、そこに何がおこるかはわからぬ」とか、「おぬしたちの命、使い捨てにいたす」とか、「策はある。まだ策はある。策がのうてはかなわんのだ」とか、映画のセリフがそのまま小説に使われている。(何度も見たので覚えた。そらで書いたけど、大きく間違ってはいないはず)
人数が約3倍半になった分だけ、小説は評判になり市川崑監督が映画化した。「十三人の刺客」は知らなくても、高倉健が大石内蔵介をやった「四十七人の刺客」(1994年)は知っている人が多い。(宮沢りえも出てたしね)
さて、ここまで書いてきて、どっちへ行こうかと迷ってしまった。篠田正浩の話にいくか、司馬遼太郎の話から「新選組血風録」の話→大島渚の「御法度」→「燃えよ剣」→新選組について、と発展させるか、あるいは「御法度」→衆道→ホモセクシャルと迂回する変則的な発展もある。
……柴田編集長が最初に手がけたWebマガジンWonder−Jの連載コラムで「土方歳三のイメージの変遷に見る新選組の認識」と題して土方歳三を演じた役者の変遷を見ながら、新選組に対する日本人のイメージの変化を考察したことがある。昔、柴田さんとは「新選組同好会」を結成していた。
はたまた工藤栄一→逆光シーン→「傷だらけの天使」と「必殺シリーズ」→「ユコハマBJブルース」の時にインタビューした話、と進むのもありか。いやいや「十三人の刺客」についても書きたいことはいっぱいあるぞ、という調子である。
時代小説において、主人公を慕うヒロインは通常ふたつの類型に分類されるが、それはなぜであり、どういう需要の元にパターンが形成されてきたのか、最終的には清楚タイプと主人公が結ばれることが多いのは、背景に男性社会の価値観が根強くあったからではないか、最近はどう変わってきたのかを社会的に考察するのも面白そうだ、などという考えも浮かんでくる。
……時代劇のパターンとして登場するふたりのヒロインタイプ、清楚で奥ゆかしい佳人タイプと奔放で野性的なヴァンプタイプについての分析および考察も、「時代劇におけるヒロイン像比較論序説」というタイトルでWonder−Jで書かせてもらった。筆名は藤川五郎でしたけど。
なんてことを書いていたら、もう2500字にもなってしまった。これでは、まるで誌面(?)を埋めるためにらちもないことを書いているみたいではないか。まあ、今回は「日刊デジタルクリエイターズ」というマガジン名の顔を立てて(?)少しデジタルの話に振って終わりにさせてもらおう。
篠田監督は時代劇の割合多い監督だ。明治時代の「舞姫」(1989年)や戦争直後の「瀬戸内少年野球団」(1984年)などもあり、同時代を取り上げた作品の方が少ないかもしれない。古代を舞台にした「卑弥呼」(1974年)なんて作品もある。
葉月里緒菜の映画デビュー(ドラマデビューは1993年4月〜6月放映の「丘の上の向日葵」)だった「写楽」は1994年の作品で、デジタル技術がかなり使われている。今、時代劇を本当らしく作るためにはCGが欠かせない。電線消しといった単純な作業も含めて、自然の風景を作るためにCGを使うのである。
「梟の城」もかなりCGが使われている。デジタル系のスタッフ名がたくさんクレジットされていた。「インフェルノコーディネーター」という肩書きの人もいたから、CM業界御用達のインフェルノも使っているのだろう。コマーシャル・フォト11月号では「インフェルノ」を特集している。
有名な話だが、忍術映画ができるきっかけになったエピソードがある。芝居の途中でフィルムチェンジになり、役者たちはそのまま待っていなければならないのに、ひとりがトイレに行ってしまった。それに気付かず撮影しつなげてみたら、いきなり人が消えてしまう。こりゃいける、というので「児雷也」シリーズなどが作られ始めたという。
「瀬戸内少年野球団」のときの話。季節はずれで桜は咲いていないが、ロングショットで桜が満開のシーンを撮らなければならない。そこで、美術スタッフはもちろん、スタッフ・キャスト全員で紙で桜の花びらを作り、桜の木に貼り付けて満開にしたという。
その時代から考えれば、デジタルテクノロジーは凄い。やっぱり便利になったんでしょうね。個人的には、みんなで桜の花びらを夜中まで作ったという話の方が好きですが……。夏目雅子が桜の花びらを作っているところなど想像すると、いいなあと思ってしまう。
■1999年11月13日号
【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
二十世紀半ばに生まれる。大学卒業後、某出版社に入り、すでに二十数年勤める。現在は隔月刊のアマチュア向けカメラ誌編集長。
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筆者および「日刊デジタルクリエイターズ」編集部の許可を得て、
【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0460 1999/11/06.Sat..発行より転載
「日刊デジタルクリエイターズ」サイトにバックナンバーはすべて掲載しています
http://www.dgcr.com/
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